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One-Side Report

透析の質は感染症チームが握っている 特定医療法人衆済会 増子記念病院(愛知県名古屋市)

免疫機能が低下している透析患者は感染症にかかりやすいことがわかっていますが、近年、高齢化の進展や糖尿病増加の影響を受け、感染症による死亡状況は悪化の一途をたどっているといわれます。今や感染症へのリスクマネジメントは重要な課題のひとつです。そこで、感染症に強い透析施設として知られる増子記念病院で、院内感染制御チーム(ICT)を率いる安田香先生を中心に、透析医療における感染管理体制の構築と実践のポイントを中心にお話を伺いました。
【病院情報】
1946年7月開設
【病床数】
一般病床102床、透析ベッド数145
【職員数】
405名
【URL】
https://www.syusaikai.com/

肝炎研究に優れた業績を残し感染症対策に早くから注目

腎臓内科主任部長を兼務しながら感染症制御チームを率いる安田香先生。「スタッフを大事にするモットーがあることも当院の大きな特徴のひとつです」。

増子記念病院は1946年に増子六郎先生によって創設されました。「衆済会」という医療法人名には、医療を通じて多くの人の苦しみを取り除きたいとする創設者の熱い思いが込められています。同院では肝臓病診療、腎臓病診療を主軸に良質な医療を提供し、地域医療に貢献するとともに、世界に通用する専門性の高い優れた臨床と研究を実践することに注力してきました。

2代目の理事長・院長職を引き継いだ増子和郎先生は、肝炎の研究において優れた業績を残し、なかでも透析患者における肝炎ウイルスの研究ではNew England Journal of Medicineの巻頭を飾る1)など世界的な注目を集めています。また、針刺し事故後のB型肝炎に対する感染予防治療は同院の研究がベースとなっています2)

このような伝統もあり、同院では早くから感染症対策に力を入れてきました。2010年には「院内感染管理室」を設置し、インフェクションコントロールドクター(ICD)である腎臓内科主任部長の安田香先生、感染管理認定看護師の横井さおりさんを中心に、看護部、薬剤課、臨床検査課、事務部などの多職種連携で対策に取り組んできました。現在は病院長が直轄する「院内感染制御委員会」がマニュアルづくりなどの具体的な感染症対策を講じ、それをもとに「院内感染制御チーム(ICT)」と各部署からのスタッフで構成される「院内感染制御リンクスタッフ委員会」のメンバーが実働部隊として現場で精力的に活動しています。

肝臓病を中心とした消化器領域と腎臓病領域では特に高い医療水準を誇る増子記念病院。2014年には新館が竣工し、ハード面でも快適な空間を提供する。

シャント感染の判断基準を統一早期治療を開始する体制を整備

同院は1973年より透析医療を開始し、現在では145床を有する名古屋市内でも有数の人工透析センターとなっており700名程度の患者が通院しています。また、腎移植後の患者もドナー、レシピエント合わせて600名程度と数多く通院しています。そういった免疫低下状態の患者の診療を行いつつ、入院機能を備えていることから、重症化した腎不全患者やADLの落ちてきた患者を積極的に受け入れていることも大きな特徴のひとつです。この地域では感染症に強い透析施設として認知されているため、エイズ診療拠点病院からはHIV陽性の透析患者が紹介されてきます。

「日本透析医学会の報告3)によると感染症は透析患者の死亡原因の第1位であり、その対策は透析医療において重点項目のひとつであることはよく認識されています。当院の場合はハイリスク者が多く、念入りに対策を講じています」と安田先生は話します。たとえばB型・C型肝炎、HIV、結核などのハイリスク感染症については対策マニュアルを作成し、スタッフはそれにしたがって対応しています。

このうち結核に関しては、結核発症率の高い地域から通院する患者が多いこともあり、スコアリングシステムを導入して早期発見に努めています。「透析患者の結核発症リスクは一般の10~15倍に跳ね上がるため、患者さん全員を対象に年1回スコアリングを実施しています。2週間以上続く発熱や咳、痰など4症状で評価し、結核が疑われる場合は痰培養検査や胸部レントゲン検査を行います」(安田先生)。同院では、検査が陽性または陰性だったときの対応、結核が疑われる患者が入院したときの対応、結核患者に接触したスタッフのフォロー原則まで細かくルール化しています。

シャント感染も重視しています。「シャントに関連した細菌感染、敗血症の報告は少なくないため、患者さんの生命予後を左右することにもなると捉えています」(安田先生)。具体的な取り組みとしては、院内でシャント感染の判断基準を統一し、疑わしい患者が出現した際には早急に治療を開始する体制を整備しました(図1)。

この対策の最大のポイントは、『透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン』にしたがって治療に使用する抗生剤を定めたことです。「バンコマイシン塩酸塩を基準に広域スペクトラム製剤を使っています。ファーストタッチでためらうと感染を拡大しかねないため、積極的に介入します。そのほうが患者さんは速やかに回復しますし、最終的には抗生剤の総使用量を減らすことにもつながっています」と安田先生は手応えを語ります。

シャント感染の起因菌ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に注意しなければなりませんが、同院のMRSA検出数は2013年度をピークに減少しています(減少率46.4%、2017年度中央値)(図2)。「シャント感染をはじめ、あの手この手で総合的に対策を講じてきたことも功を奏し、ようやく実績が出てきたところです。感染防止対策加算を取得する県内施設群で、愛知医科大学病院ICTの三鴨廣繁教授が中心となってクリニカルデータを収集する取り組みに参加していますが、透析患者が多い当院は他院に比べて圧倒的にMRSAの検出が多かったのです。この結果によって、徹底的に対策に取り組まないと感染症をコントロールするのは難しいことを思い知らされました」と安田先生は振り返ります。

感染症教育で知識と意識を高め現場スタッフの行動変容を促す

腎臓2014年に感染管理認定看護師を取得した横井さおりさん。器具や寝具の取り扱い、掃除の仕方など透析室の環境整備にも丁寧にアドバイスしている。

安田先生が率いるICTでは、感染症対策に徹底的に取り組むうえで、院内の知識と意識を向上させることが先決だと気づきました。そこでスタッフ教育にも乗り出し、全職種、新人、部署別など、対象が異なるさまざまな勉強会を定期的に開催するようになりました。「院内のアウトブレークはスタッフが媒介することも多いため、職種や雇用形態によらず、すべての職員への教育を重視しています。“うつさない、拡げない、もらわない”をスローガンに、感染症に対する知識と意識の向上を図ってきました」と感染管理認定看護師の横井さんは説明します。

こうしたICTの地道な活動が実り、透析室においても看護師の感染管理に対する意識と行動が大きく変わってきたといいます。「すべての菌に対応することを念頭にどのような場合も同レベルの行動がとれるようになりました」と看護部課長の今井眞里さんは評価します。たとえば透析室では常にマスクを着用、シャント穿刺や止血など血液の飛散が予測される処置では、未使用のディスポーザブル手袋のほかガウン、エプロン、サージカルマスク、ゴーグルなどの着用と、処置前後の手指の消毒を欠かしません。

さらにインフルエンザの流行期には、患者への注意喚起を積極的に行うだけでなく、自宅での体温計測を促し、発熱しているときは事前に電話報告してもらう仕組みも導入しました。「症状がある患者さんを受け入れる場合は、他の患者さんやスタッフにうつさないように透析時間をずらしたり個室を用意したりと、感染拡大を防ぐ対策に腐心しています」と透析室主任の山口紗有香さんは説明します。

鼻を出したままマスクを着用するなど、間違った対応に関して互いに指摘し合ったり、発熱しているのに出勤してきたときは注意し合うなど、感染リスクを低減させるための行動も少しずつ根づいているそうです。疑わしい患者が現われたときの初動も以前よりも迅速になったといいます。「スタッフが“この患者さん、怪しいと思います”と指摘してくれるケースが増えてきました。感染症に気づける看護師が多いほど感染拡大を防げるので、よい傾向だと評価しています」(山口さん)。インフルエンザが流行し一定数の発病者が出たときは、スタッフを含め接触者に抗インフルエンザ薬を予防投与する処置を行いますが、その際もICTから指示される前に看護師が自主的に投与者リストを作成するようになったそうです。このようなさまざまな行動変容に対し「看護師のなかで“うつさない、拡げない、もらわない”という意識が定着し始めていると実感しています」(今井さん)。

高齢化で高リスク者が増えるなか透析の質を握るのはICTの活躍

透析室を担当する看護部課長の今井眞里さん。リンクスタッフをサポートし、感染者の早期発見や感染の拡大防止に力を注ぐ。

透析室主任の山口紗有香さん。横井さんや今井さんと連携し、透析室の看護師たちが徹底した感染症管理を行えるようサポートする。

山口さんは「ICTのバックアップがあるからこそ透析室の看護師は自信を持って感染症対策に取り組めます」といいます。感染症の対応について現場でわからないことがあると、最初に院内感染制御リンクスタッフ委員会のメンバーに確認し、そこで対応ができない場合は感染管理認定看護師に確認するという流れが確立されつつあります。しかし、リンクスタッフは入れ替わりがあったり経験に乏しい若手看護師が担当していたりすることもあり、対応しきれない状況がときに起こります。

それに対し安田先生は「看護部課長がフォローしてくれる場面もありますが、針刺し事故や発症頻度の少ない感染症患者の受け入れなど、まれに起こることでなおかつ緊急度の高い事案については、感染管理認定看護師が現場の看護師をコンサルテーションする体制を整備しています」と説明します。

コンサルテーションについては、以前は書面で依頼を受けていましたが、それでは役割が十分に果たせずオンコール体制に切り替えたということです。「マニュアルはあるものの現場の看護師も熟読しているわけではないので、指示するだけでなく現場に出向いて一緒に動くこともしばしばあります」(横井さん)。

安田先生も横井さんもICT専従ではないため、コンサルテーションに対する負担も小さくないですが、感染症対策を重要な任務であると強く認識しています。「透析患者さんが高齢化するなか、当院ではチーム医療とトータルサポートを基本に“透析では死なせない”ことを目指して日々の業務に取り組んでいます。このチームの一員として、治療可能な感染症で透析患者さんが命を落とすことだけは何としても避けたいのです」(安田先生)。

増子記念病院のICTでは、患者教育など残された課題をひとつひとつクリアしながら、これからも“できるだけ健康で長生きできる”透析医療を支える土台の役割をしっかり果たすことを目指しています。

1)Masuko K, et al. N Engl J Med. 334:1485-1490, 1996.
2)Mitsui T, et al. Hepatology. 10(3):324-327, 1989.
3)日本透析医学会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況 2016年12月31日現在.

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