「医」と「知」をつなぐ情報誌 キッセイクール KISSEI

コロナ禍における糖尿病診療のあり方と患者自身による治療選択・インフォームドチョイスの実現

門脇 孝 先生/国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長
2020年3月11日に世界保健機関(WHO)によってパンデミックが宣言された新型コロナウイルス感染症は、日本の糖尿病診療にも多大な影響を及ぼしています。第2波における新規感染者数は7月末にピークを迎えたとされるものの、第3波、第4波が到来することも予想され、加えて、糖尿病は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクとの報告もあることから、この点を考慮に入れた適切な対策が望まれます。そこで、コロナ禍における糖尿病診療のあり方について、虎の門病院 院長 門脇 孝先生にお話を伺いました。
Osamu Yokoyama
門脇 孝先生
国家公務員共済組合連合会
虎の門病院 院長
1978年
東京大学医学部医学科卒業、同大医学部附属病院内科研修医
1986年
アメリカ国立衛生研究所糖尿病部門客員研究員
1996年
東京大学医学部第三内科講師
1998年
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科講師
2001年
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授
2002年
社団法人日本糖尿病学会理事
2003年
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授
2004年
東京大学総長補佐
2005年
東京大学医学部附属病院副病院長
2008年
社団法人日本糖尿病学会理事長
2011年
東京大学医学部附属病院病院長
2012年
東京大学トランスレーショナルリサーチ機構長
2018年
東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・生活習慣病予防講座特任教授
2020年
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長に就任

新型コロナウイルス感染症の影響

ー 新型コロナウイルス感染症は日本の糖尿病診療にどのような影響を及ぼしていますか?

日本の場合、2020年4月上旬から感染者数が急増しましたが、専用病床数を増やしたこともあり、医療崩壊を回避することができました。他方、糖尿病は心血管疾患や腎疾患とともに新型コロナウイルス感染症の重症化リスクと報告されたことから、日本糖尿病学会では一般の方向けと医療機関向けのQ&Aをホームページ1)に掲載し、不安や疑問に対応しました。しかしながら、受診を控える行動がみられたことは事実です。それ故、感染拡大のピーク時には遠隔医療制限の一時的な解除、電話やリモートなどのコミュニケーションツールを介して処方箋を送り、医療用品を患者さんのもとへ届けるという手段も講じられましたが、これはあくまでも緊急措置と理解してください。

コロナ禍における糖尿病診療のあり方

ー 糖尿病患者さんにはどのような指導をされていますか?

患者さんの不安のひとつは、糖尿病があると新型コロナウイルス感染症に罹りやすいのではないかということだと思います。これまでのところ、糖尿病患者さんは新型コロナウイルス感染症に罹患しやすいというデータはありません。中国や米国の統計データは、糖尿病患者群と一般人口の新型コロナウイルス感染症有病率に差がないことを示しています2,3)。まず、その点を糖尿病患者さんに伝え、一般の方々と同様の感染予防策を実践するように指導しましょう。

また、第2波では、「夜の街」に始まり、会食、職場、家庭内へと感染発生の主体となる場面が移り変わりました。これらの場面に共通する危険性は、会話に伴う飛沫感染です。飲食の際にはどうしてもマスクを外しますから、「マスクを着けていない状態では会話をしない、会話は食事を終えてマスクをつけてからする」ということを徹底してもらうように指導する必要があります。

上述したように、糖尿病患者さんが受診を控える行動がみられました。言うまでもなく、糖尿病を治療するには患者さんに定期的に通院していただき、必要な検査を受けてもらい、状態を把握することが不可欠です。患者さんの状態に関する情報がなければ、血糖コントロールが悪化している可能性を否定できない中で従前と同じ治療を行う事態が生じてしまいます。受診自粛の原因である感染リスクに対する患者さんの不安を払拭するには、医療機関側が十分な感染対策を講じた上で診療を行っている事実を、患者さんが納得する方法をもって伝えることが必要です。

具体的には、来院時の検温、手指消毒、マスクの着用、入口での問診といった基本的な感染防止策の徹底により、受診しても感染することはない、他人に感染させることはないという安心感を持っていただくこと。その上で、主治医が病状に基づく適切な通院間隔を患者さんに伝え、納得していただき、実践していただくようにすることです。それでもなお不安を抱く患者さんについては、主治医や病院スタッフに遠慮なく質問できる環境と正確な説明を行える体制を整えて対応することが求められます。

表1:COVID-19の疑いあるいは陽性の2型糖尿病患者における薬物代謝障害作用の可能性についての考察)

ー 糖尿病が新型コロナウイルス感染症の重症化リスクのひとつとされていますが、罹患してしまった患者さんにはどのような対応を採るべきでしょうか?

糖尿病は、新型コロナウイルス感染症の罹患リスクを高めないとされる一方で、重症化リスクであることを示す複数の報告があります4-7)。また、糖尿病患者さんを対象に血糖コントロールの善し悪しで重症化リスクの違いを調査した研究が行われ、それらの研究結果では、血糖コントロール良好群は不良群に比べて重症化する危険性が低いことが示されています8,9)。これらの結果は、血糖コントロール状態を改善するという糖尿病治療の基本が新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ上で重要であり、また、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合は、可能な限り速やかに血糖値を下げる必要があることを示唆していると言えるでしょう。

具体的には、他の感染症に罹患したときと同様に、まず、血糖値を速やかに下げるために一時的にインスリン治療を導入します。なお、使用中のインスリン以外の血糖降下療法薬については、以下に示すいくつかの注意点があります。メトホルミンは慎重投与あるいは禁忌とされています。感染症に罹患すると脱水状態が生じやすく、乳酸アシドーシスのリスクが高じるからです。特に、新型コロナウイルス感染症は呼吸器や心臓に障害が出るため、他の感染症よりも乳酸アシドーシスのリスクが高まります。したがって、メトホルミンは中止が原則となります。SGLT2阻害薬については、この薬剤自体が脱水を誘導することがあり、やはり、中止が原則となります。当然のことながら、これらの成分を含有する配合剤についても同様です。SU薬やグリニド薬の場合は脱水に関係する大きな問題はありませんが、低血糖のリスクがあり、慎重な使用が求められます。DPP-4阻害薬は脱水の問題もなく、低血糖リスクも比較的低いということで、状況をみながら継続使用することに大きな問題はありません。GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬、SU薬、グリニド薬に比べればリスクは低いと考えられますが、消化器症状などの有害事象が報告されており、使用継続を勧めることはできません。これらの注意点および対策は、Bornsteinらの専門家パネルの提言10)と一致しています(表1)。以上のことから、新型コロナウイルス感染症に罹患した糖尿病患者さんの場合は、一時的なインスリン導入とともに、症例によっては既存の血糖降下薬をDPP-4阻害薬に切り替えるといった対応が考えられます。

一般に、感染症に罹患した場合は消化器症状が生じて食事が摂れなかったり、脱水状態を起こしたりします。いわゆる「シックデイ」という状態であり、上述した薬剤の選択、使用上の注意点もシックデイ対策11)に準じたものになっています。

ー 感染防止のための新しい生活様式が提案されたことで、食事療法や運動療法に変化はありますか?

感染防止策として、不要不急の外出を控えることが求められています。関連して、糖尿病患者さんも以前とは異なる方法で食事療法と運動療法を行うことになります。中には、自宅での食事の機会が増えたことで血糖コントロールの改善をみたという患者さんもいます。逆に、高カロリー、高脂肪、高糖質ばかりを摂るようになってしまったという方もいます。食事の場面が変わったことに合わせた、バランスのよい栄養摂取の方法をアドバイスすることが重要になります。運動については、スポーツジム通いやジョギングなど、規則的に実施してきた患者さんが、感染の機会を高めるということでそれらを断念せざるを得ない状況があります。したがって、運動をできる新たな場所、機会についての助言も求められていると思います。糖尿病診療に従事する医療スタッフには、医療チームとしてコンセンサスを形成した上で、新しい生活様式の中での個々の患者さんに合った食事の摂り方、運動の仕方を指導することが求められています。

糖尿病に対する社会の偏見の解消による患者さんの治療への参加意識の活性化が重要

図1:患者中心の治療を実現させていくためのインフォームド・チョイス

図2:服用中薬剤のアンケート調査

現在、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が共同で2型糖尿病患者さんのスティグマとそれによる“self-stigmatization(自己否定)”が治療に及ぼす影響を研究しています。2型糖尿病は体質を主因に生じる病気であり、患者さんの性格の問題ではなく、食事の乱れ、運動不足は外部環境要因によるところも大きいわけですが、多くの社会に、「2型糖尿病患者はだらしがない」といった誤解、偏見があります。このような誤解、偏見に曝された糖尿病患者さんは自己を否定するようになり、治療への参加意識を減退させてしまいます12)。コロナ禍にあっては、上述した「糖尿病患者は新型コロナウイルス感染症に罹患しやすい」という誤解もあり、結果として糖尿病患者さんのスティグマが倍加してしまいます。

他方、わたしたちの研究グループによる不良であった血糖コントロールが改善した2型糖尿病患者さんを対象とした検討13)では、正確な情報を得ながら治療を継続することで患者さん自身の「血糖をコントロールできている」という感触が増進することがわかりました。この検討で得られた知見から、血糖コントロールを改善する上での患者さんの“self-worth(自己肯定)”の獲得の重要性を確認するとともに、わたしたち医療従事者は単に日常的に糖尿病の自己管理モニタリングの改善を評価するだけでなく、患者さんの心理的な側面を考慮する必要があることを学びました13)

以上の知見12,13)は、コロナ禍にあっては医療従事者がこの新たな感染症と糖尿病の関係について正しい知識を社会全体に対して発信し、患者さんの治療意欲が萎縮してしまわないように、自身の病気としっかりと向き合えるように、自己肯定感が増す方向、例えば、シンプルで容易な課題を提示して達成感を得てもらう方法で心理的なサポートを行うことの重要性を示唆しています。

ー インフォームド・チョイスも患者さんの治療への参加意識を高める上で重要と聞いています

「インフォームド・コンセント」は、医師自身がよいと思う治療法を患者に説明し、納得させた上で治療に取り掛かることを意味します。それに対して、医師が医学的に差のない複数の選択肢について説明し、その中から患者さん自身が望む方法を選択することを「インフォームド・チョイス」(informed shared decision makingとほぼ同義)と呼びます(図1)。鈴木らは、2型糖尿病の外来患者を対象に、現在服薬中の薬剤に関する要望についてアンケート調査を行っています。質問項目は、薬剤の数や服薬回数を減らしたいか、1剤であったとしても週1回製剤に変更するか、週1回製剤を導入する場合は2週1回通院となるがそれでも希望するか、といったものでした。その結果は、DPP-4阻害薬を服用中の糖尿病患者さんのうち、72.9%が現在服用中の薬剤を減らしたいとし、55.3%が現在服用しているDPP-4阻害薬のみでも週1回に減らしたいというものでした(図214)

インフォームド・チョイスを提供された患者さんは、当然、自分の病気について主治医に質問するだけでなく、セカンドオピニオンを求めたり、インターネットで詳しく調べたりするでしょう。そうすることで、患者さんの中に病気と主体的に向き合う姿勢、つまり“self-worth”が生まれてくることが期待されます。標準治療が自分のQOLの向上につながるとは限らないと考えた場合、患者さんは必ずしも医療者が最善としない方法を選択することも考えられます。しかし、その場合であってもアドヒアランスの向上が期待できると思われます15)。このように、主導権を持つのは患者さん自身なのです。インフォームド・チョイスとは、患者さんの話を聴く(傾聴)という診療の基本そのものであることを忘れてはならないと思います。

患者さんの意志を尊重する糖尿病診療におけるDPP-4阻害薬weekly製剤の意義

図4:服薬遵守状況( 連日投与製剤併用患者、1年後)

ー DPP-4阻害薬weekly製剤オマリグリプチンのエビデンスについて、服薬遵守状況も含めてご紹介ください

オマリグリプチンは、シタグリプチンおよびプラセボとの第Ⅲ相無作為化二重盲検比較試験+非盲検延長試験において、シタグリプチンに対する非劣性、プラセボに対する優越性が検証されました(図3)。

また、梅木ら16)は、特定使用成績調査を行い、その中でオマリグリプチン投与開始から1年後までの服薬遵守率が98.9%であったと報告しています(表2図4)。

図3:第Ⅲ相無作為二重盲検比較試験+非盲検延長試験(単剤投与による非劣性試験)

表2:マリゼブ®の長期使用に関する特定使用成績調査 ー1年次中間解析の報告ー

図5:週1回 DPP-4阻害薬のニーズ

ー インフォームド・チョイスを実践した際、患者さんはweekly製剤を選択されるのでしょうか?

内田17)は、daily製剤のDPP-4阻害薬を服用中の2型糖尿病外来患者を対象にアンケート調査を行っています。その中で、DPP-4阻害薬のdaily製剤からweekly製剤への切り替えを希望するかという質問に対し、回答者の29%は「とても思う」、15%は「やや思う」、24%は「どちらでもない」、21%は「あまり思わない」、11%は「必要ない」を選びました(図5)。weekly製剤に前向きな回答は44%、否定的な回答は32%と大きく分かれ、その理由として「飲み忘れが減る」という肯定的な意見がある一方、「かえって飲み忘れが増える」という見解も示されました。この結果を踏まえて内田は、「weekly製剤への潜在的需要は大きいと思われたが、同時にまたweekly製剤の嗜好は患者ごとに異なるため、正しい情報のもとで患者個々が自分に合ったDPP-4阻害薬を選択することが大切」と述べており、「weelky製剤は服薬回数を減らすことで服薬アドヒアランスを改善させ、長期的にみると血糖コントロールとQOLの向上に寄与することが期待される」と結論づけています。

コロナ禍の糖尿病診療のあり方について

ー 糖尿病診療に従事されている医療者の方々にメッセージをお願いします

日本を含む西太平洋地域では、ドライブスルー方式のスクリーニング施設、迅速なRT-PCR検査技術、重症化回避のための手法などが実践されています。また、この地域での2020年9月初頭時における新規感染者数は総じて減少しています。しかしながら、新型コロナウイルス感染症との戦いに終焉はみえず、多くの糖尿病専門医が第3波、第4波、さらに、他の感染症のパンデミックに対する準備の重要性を提唱しています18)。感染症の悪影響から患者さんを守れるかどうかは、糖尿病診療に従事する医療者間の協力と知識の共有の度合いにかかっていると考えています。

参考文献

1)
一般社団法人日本糖尿病学会. 新型コロナウイルス(COVID-19)への対応について(Q&A)(http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=137
2)
Fadini GP, et al. J Endocrinol Invest 2020;43:867-869
3)
Singh AK, et al. Diabetes Metab Syndr 2020;14(4):303-310
4)
Kumar A, et al. Diabetes Metab Syndr 2020;14(4):535-545
5)
Guo W, et al. Diabetes Metab Res Rev 2020;7:e3319. doi:10.1002/dmrr. 3319
6)
Chen Y, et al. Diabetes Care 2020;43(7):1399-1407
7)
Zhu L, et al. Cell Metab 2020;31(6):1068-1077. e3
8)
Zhang Y, et al. Diabetes Obes Metab 2020;22(8):1443-1454
9)
Sardu C, et al. Diabetes Care 2020;43(7):1408-1415
10)
Bornstein SR, et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2020;8(6):546-550
11)
国立国際医療研究センター糖尿病情報センターホームページ(http://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/060/06.html
12)
Kato A, et al. BMJ Open. 2020;10(5):e034757. doi:10.1136/bmjopen-2019-034757
13)
Kato A, et al. BMJ Open. 2020;10(8):e034758. doi:10.1136/bmjopen-2019-034758
14)
鈴木大輔 他. Prog Med 2016;36(3):389-392
15)
Buhse S, et al. BMJ Open 2018;8(12):e024004. doi:10.1136/bmjopen-2018-024004
16)
梅木 佳江 他. 新薬と臨牀 2018;67(9):1044-1074
COI:梅木らはMSDの社員である。
17)
内田大学. 糖尿病診療マスター 2017;15(1):26-31
18)
Hwang Y, Kadowaki T, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2020;166:108278. doi:10.1016/j.diabres.2020.108278


『マリゼブ錠のDrug Informationはこちらをご参照ください。』

※WEBにて取材を行いました(2020年9月)。

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