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One-Side Report

CDEJを中心とした多職種チームで患者に支持される糖尿病教室を運営 坂出市立病院 糖尿病内科(香川県坂出市)

糖尿病をコントロールするうえで患者の生活習慣改善は欠かせず、日常診療の補完のため糖尿病教室を開催する医療機関も多いなか、内容がマンネリ化し、患者に飽きられるといった悩みを抱える施設も少なくありません。そこで、多くの患者が参加し、リピーターも続出の糖尿病教室を運営する坂出市立病院 糖尿病内科の大工原裕之先生に、患者に支持される教室づくりのポイントを伺いました。
【設 立】
1947年
【診療科目】
内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科、血液内科、漢方内科、小児科、外科、消化器外科、呼吸器外科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、麻酔科、リウマチ科、放射線科、臨床検査科、リハビリテーション科
【病床数】
194床(一般病床190、感染症病床4)
【URL】
https://www.city.sakaide.lg.jp/site/sakaide-hospital/
(2020年4月1日時点)

糖尿病患者が多い原因は運動不足と地域特有の食習慣

最新のデータによると、香川県は糖尿病による死亡率が青森県、徳島県に次いで全国第3位1)、人口10万人あたりの受療率(外来)も佐賀県、鹿児島県、三重県、長崎県に次いで第5位2)と糖尿病患者が多いことで知られています。坂出市立病院 糖尿病内科 部長の大工原裕之先生は、背景として車社会による運動不足の影響が大きいとしたうえで、さらに他県には見られない特有の食習慣が重なって、糖尿病患者が増えてきたのだと考えます。

その食習慣とはご想像のとおり「うどんをよく食べる」ことです。「“うどん県”を名乗る香川県は、コンビニエンスストアよりうどん店の数のほうが多く、昼食は毎日うどんというような人も少なくありません。うどんと一緒におにぎりやいなりずしを食べる習慣もあるため、1食あたりの炭水化物の摂取量が増えて、食後血糖値が高くなっていることが容易に推測されます」。

このような生活スタイルや食習慣が定着しているなか、坂出市立病院では現在1700人余りの糖尿病患者が診療を受けています。「私が当院に赴任し糖尿病外来を開始した1992年ころは、週に2枠の外来診療でした。現在では平日全日と第2土曜午前中に診療枠を設け、フル回転で対応しています」と先生は糖尿病の診療状況を説明します。年々糖尿病患者が増加し診療枠を広げてきた同院は、2014年に現在地に新築移転したことを契機に糖尿病センターを新設しました。フロアには診察室、栄養指導室、フットケア室が隣接し、各職種が連携して診療に取り組める環境が整備されています。診療体制については専門医2名のほか、看護師11名、管理栄養士1名、薬剤師1名、理学療法士2名、臨床検査技師1名が配属されており、このうち日本糖尿病療養指導士(CDEJ)の資格を持つスタッフが7名います。2003年には糖尿病療養指導チームも発足し、専門性の高い治療とケアを提供しています。

スタッフがCDEJを取得して申し出てくれたことが教室の転機に

「糖尿病教室には院外の患者さんも大勢参加してくださっています。ここで正しい知識を得ることが開業医の先生がたの診療サポートにもつながることを願っています」と大工原裕之先生は話す。

糖尿病センターでは日常診療に加えて月1回、第2水曜の午後に糖尿病教室を開催しています。同センターを受診する患者だけでなく地域にも広く門戸を開いており、坂出市の広報誌でも参加者を募ります。大変に人気のある教室で、現在はコロナ禍のため人数を制限していますが、毎回30~60人もの患者や家族が参加し、リピーターも少なくありません。

この糖尿病教室が始まったのは先生が同院に赴任して2年目の1994年のことです。「病院長の発案で、当院の糖尿病診療の周知も兼ねて、オープンな形で糖尿病教育に取り組んでいくことにしたのです」と先生は振り返ります。しかし当初は外来患者も少なく、教室は入院患者を中心に開催、参加者4~5人という寂しい状況でした。また、医師1人が講義するスタイルは患者にすぐ飽きられ「退屈だ」との辛辣な声も耳にしました。それでも先生が糖尿病教室をやめなかった理由は「糖尿病をコントロールするうえで生活習慣の改善が必須であるにもかかわらず、診察室で患者さんに向き合える時間は5~10分しかなく、十分な対応ができなかったからです。糖尿病教室の1時間は私にとって日常診療を補える貴重な時間だったのです」。

孤軍奮闘すること6年、糖尿病教室は転機を迎えます。スタッフがCDEJ資格を取得して、さらに「私たちにも糖尿病教室の運営をサポートさせてくださいと申し出てくれたのです。心強かったし、とても嬉しかったですね」と先生は前向きに取り組んでくれたスタッフへの感謝を述べます。最初は看護師、薬剤師、管理栄養士の3職種、その後まもなく理学療法士と臨床検査技師も運営に加わるようになりました。

表:糖尿病教室で実施したリレー講義の例

こうしてCDEJを中心に多職種のチームで運営するスタイルになると、糖尿病教室の内容も一変しました。医師による病態解説に加えて、スタッフが職種ごとに10~15分の短い講義をリレー形式で組み、食事・運動・薬・生活全般の療養情報をまんべんなく提供するようにしたのです()。すると教室の進行にもメリハリが出て、参加者からも「面白い」といった感想が聞かれるようになりました。「それぞれの職種の専門性を生かした内容となっていますが、共通するのは患者さんの視点に立ち、すぐに役立つ情報を提供している点です」と、先生はスタッフによるリレー講義を高く評価します。

このような活動を続けることはスタッフにもよい効果をもたらしていると先生は指摘します。「毎回の講義で使用する資料をスタッフ自身が作ることで各自のモチベーションが維持・向上されていますし、患者さんの前でうまく講義できたことが療養指導への自信にもつながっています。また、教室を開催した当日に反省会を行い、翌月の課題を明確にする機会を持ち続けたことは、チームで日常的にディスカッションする習慣づくりにも役立ちました」。

患者の行動変容を促すために一歩踏み込んだ教室運営を目指す

年1回開催している糖尿病教室スペシャルイベントの様子。この年はクイズ大会を開き、療養ポイントをみんなで楽しく学んだ。各テーブルにはスタッフが1人ずつ入り、普段聞けない患者の本音に触れる場にも。

糖尿病センターでは毎月の糖尿病教室のほか、年に1回スペシャルイベントも開催しています。クイズ大会などお楽しみの要素を取り入れて患者に人気があり、なかでも好評なのが糖尿病劇場です。内容は日常生活の困り事、医師とのコミュニケーション、節制生活の葛藤など患者心理に注目したもので、スタッフが台本を作成し、患者役も演じます。糖尿病劇場の効果について、先生は「患者さんは“自分たちの気持ちをわかってくれているのだな”と私たち医療者にシンパシーを感じてくれるようになります。また、私たちも患者さんの心の内を実感できるようになり、お互いの距離が縮まったように思います」と評価します。糖尿病劇場は準備に1年ほど時間を費やすため、毎年の上演は難しいそうですが、それでも定期的に続けていきたいと先生は考えています。

2020年はコロナ禍のため糖尿病教室を春に一時中断、7月に再開したものの、12月の現在もさまざまな制約を強いられています。しかし先生はコロナ禍の今こそ、患者の糖尿病コントロールが疎かにならないようできる範囲で開催を続け、サポートしていきたいと意欲を見せます。今後は参加者とともにディスカッションし、疑問に答えていくなど双方向の教室運営も視野に入れます。「患者さんが自分の病気を理解し、糖尿病が悪化しないように生活習慣を変えることが当教室の目標です。この目標を達成するには、もう一歩踏み込んで、患者さんのやる気を引き出して行動変容を促すようなプログラムを提供することが不可欠です。これからも患者さんに一層支持される糖尿病教室であるよう、チームで力を合わせて取り組んでいきます」。坂出市立病院の糖尿病教室はさらなる進化を目指しています。

参考文献

1)
厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況
2)
厚生労働省 平成29年患者調査

※WEBにて取材を行いました(2020年12月)。

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