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食後高血糖を見据えた糖尿病治療~持続血糖モニター(CGM)からみた新しい糖尿病治療の流れ~食後高血糖を見据えた糖尿病治療~持続血糖モニター(CGM)からみた新しい糖尿病治療の流れ~

TOPICS
西村 理明 先生
東京慈恵会医科大学
糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授
西村 理明 先生
糖尿病治療の目標は、血糖コントロールにより糖尿病特有の合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を防ぐことで、生命予後への影響を最小限に抑えることにある。それにはHbA1cや空腹時血糖だけでなく、血糖変動を正確に捉え、治療の個別化・最適化につなげることが極めて重要となる。その際に有用な情報をもたらすのが持続血糖モニター(CGM)である。そこで、CGMを用いた臨床研究の第一人者であり、本邦への機器導入・普及に尽力されてきた東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授の西村理明先生に、“食後高血糖を念頭に置いた、CGM活用による新たな糖尿病治療の流れ”について、Web講演の内容を中心に解説いただいた。

血糖変動のパターンがHbA1cの質を分ける

糖尿病を治療する上で血糖コントロールの標準的な指標とされるのはHbA1cである。ところが、2008年に早期中止となったACCORD試験では、治療を強化してHbA1cを厳格に下げても心血管疾患の発症は抑制できず、かえって死亡率を高める結果となった1)。その後の10年は“なぜか”を巡って各国の研究者がしのぎを削ってきたが、糖尿病治療は“いかに低血糖を起こさずにHbA1cを下げるか”が重要であり、血糖の変動幅に着目すべきであるとの結論に落ち着きつつある。

実際、HbA1c値や平均血糖値が同等であっても、血糖値に大きな変動のない“質の良いA1c”と、低血糖や高血糖を生じて変動幅の大きい“質の悪いA1c”が存在する。では、その良し悪しを分ける基準とは何か。それに対してひとつの答えを示したのが、国際糖尿病治療テクノロジー学会での議論を経て、2019年6月開催の米国糖尿病学会学術集会で“血糖管理目標に関する国際的なコンセンサス”として発表されたBattelinoらの論文2)である。

すなわち、血糖コントロールの目標値(治療域)を70~180mg/dLとし、24時間の血糖値の経時的変化のなかで、その範囲内にある測定回数あるいは時間が占める割合をTime in Range(TIR)と定義する。そして、1型・2型糖尿病においてはTIRが70%を超えること、かつ高血糖域を25%未満、低血糖域を5%未満に抑えることを目標とするものである。これは、TIRが70%を超えるとHbA1c7.0%未満を達成できる可能性があるとの報告に基づく。一方、高齢者または高リスクの1型・2型糖尿病においては、TIRが1日のうちの50%を超えており、かつ250mg/dL未満の高血糖域が50%未満であること、低血糖は限りなくゼロに近づけることを推奨している。

血糖変動を正しく把握する持続血糖モニター(CGM)

このTIRを求めるのに必要とされるのが持続血糖モニター(CGM)である。間質液中のグルコース値を測定する機器で、血糖変動を点ではなく線で捉えることができる。大きく分けてCGMには、おもに検査を目的としたレトロスペクティブCGMと、自己管理用としても有用なリアルタイムCGMとがある。昨今、さらに進化した機器が薬事承認されており、低血糖が起こるのを予測して警告することで、未然に防ぐことも可能になっている。

CGMを治療に活かす①
― 低血糖を防ぐ

糖尿病治療薬はその特徴から、食後の高血糖に有効なαグルコシダーゼ阻害薬(αGI)や速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、血糖変動全体を平均的に下げるビグアナイド薬やチアゾリジン薬、スルホニル尿素(SU)薬、夜間と食後血糖をバランス良く下げるDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬とに分けることができる。インスリン療法についても、食後高血糖を制御する速効型や超速効型、インスリンの基礎分泌を補い血糖変動の全体を下げる中間型や持効型溶解、以上の2つをミックスした混合型、配合溶解インスリン製剤とが使い分けられている。

日本糖尿病学会の調査委員会は、2型糖尿病患者の重症低血糖(約800例)の原因薬剤に関して、3割強がSU薬、約6割がインスリン製剤であったと報告している3)。とりわけ、SU薬を服用中の後期高齢者で、HbA1cが7%を切ると低血糖の危険性が高まることも明らかにされている。

インスリン分泌促進系薬による低血糖のリスク回避が構造上期待できるものとして、SU薬の作用を増強させているベンズアミド骨格と類似の構造を持たず、かつ膵臓のSU受容体に高い選択性を持つミチグリニド4)が挙げられる。

CGMを治療に活かす②
― 食後高血糖を改善する

図1:血糖値と心血管死との関係:DECODA Study(海外データ含む)

一方、食後高血糖が動脈硬化性疾患などの合併症のリスクを高めることがさまざまな観察研究により報告されている。5つの前向き試験に参加した日本人およびアジア系インド人約7千例について、血糖値と心血管死との関係を解析したDECODA試験の結果もそのひとつである。それによれば、心血管死のハザード比は空腹時血糖値の分類とは関連がみられなかったのに対し、75g経口ブドウ糖負荷後2時間値の分類とは有意な相関を認めている(図15)

現在、2型糖尿病治療薬としてもっとも多く処方されているのがDPP-4阻害薬である。本薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進させて食後の血糖上昇を抑えるとともに、グルカゴンの分泌抑制により夜間の血糖値を下げて、血糖変動幅を小さくする効果を持つ。ただし、DPP-4阻害薬を用いても食後高血糖が十分に改善しない場合には、αGIやグリニド薬、あるいはその両方を併用することが望ましい。このことを示唆する国内で報告されている知見を紹介する。

グリニド薬であるミチグリニドとαGIであるボグリボースの配合剤は、腸からの糖の吸収を遅らせて血糖値の上昇を緩やかにするαGIのはたらきと、食後早期に膵臓からのインスリン追加分泌を促すグリニド薬のはたらきのタイミングが合わさることにより6)、食後1時間値も2時間値ともに下げることができる7)

日本人の2型糖尿病患者20例を対象とした、DPP-4阻害薬とミチグリニド/ボグリボース配合剤(MV)ならびにSU薬追加投与の無作為化クロスオーバー試験の結果からもその効果がみてとれる8)。被験者はDPP-4阻害薬を2日以上投与したのちに、MVを3日間併用し、その後の3日間はSU薬を併用する群と、SU薬を3日間併用したのちにMVを3日間併用する群とに割り付けられ、いずれもCGMを用いた血糖日内変動を計測した。結果、SU薬併用時とMV併用時の平均血糖値は同等であったが、血糖の標準偏差や血糖変動の平均振幅等はいずれもSU薬併用時に比べてMV併用時において有意に小さく、さらにSU薬併用時においてはMV併用時ではみられなかった低血糖が1日あたり0.35回生じていた。

患者意識調査でも明らかな食後高血糖への治療ニーズとCGM普及の必要性

図2:2型糖尿病患者を対象とした食後高血糖に関する意識調査

2型糖尿病患者を対象にWebアンケートによる“食後高血糖に関する意識調査”を実施した9)。調査期間は2019年4月19日~6月12日で、有効回答877例の平均年齢は57.5±11.6歳、男性が76.6%であった。また、HbA1c7%未満が55.4%を占めており、84.9%が経口薬を服用、14.5%が注射薬を使用していた。

全体の92.3%が2か月以内にHbA1c値を測定し、数値を把握していたが、食後血糖値を把握していたのは45.6%にとどまった。一方、82.4%が食後血糖値を“把握したい”、“どちらかというと把握したい”と希望しており、74.8%もの人がCGMを利用して24時間の血糖変動を測定してみたいと回答していた(図2a)。さらに、食後血糖値が高かった場合、81.1%の人が治療を“積極的に検討したい” “医師が必要と判断するなら検討したい”としており(図2b)、食後高血糖への関心の高さや、CGMを用いて血糖変動を把握したいという患者ニーズの高さがうかがえる。

現在、CGMの適応拡大や保険点数の見直しが要望されているが、今のところ糖尿病治療の大多数を占める経口薬服用者においては保険診療で常にCGMを用いることができない。そこでぜひ、HbA1cと空腹時血糖値だけでなく、翌月には来院時間を調整して食後1時間値を、翌々月には食後2時間値を測定するなど、採血のタイミングをずらすいわゆる“0-1-2-3時間”活動を試みて、自身の血糖変動を知る機会を与えていただきたい。

糖尿病においては、食後高血糖や低血糖を念頭に置いた診療が不可欠であり、血糖変動を把握し個々人の血糖変動パターンに合った個別化治療を行なうことで、合併症予防につなげていただきたい。また、欧米のデータに基づく治療指標について、果たして日本人にとってもそれが最適なのか否か、既存の臨床研究、疫学の知識を生かして明らかにしたいと考えている。

参考文献
1 )Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group. N Engl J Med. 358:2545–2559, 2008.
2)Battelino T, et al. Diabetes Care. 42:1593-1603, 2019.
3)難波光義 他. 糖尿病60巻12号. 826-842, 2017.
4)Reimann F, et al. Br J Pharmacol. 132:1542-1548, 2001.
5)Nakagami T, et al. Diabetologia. 47:385-394, 2004.
6)河盛隆造. 実験治療. 674:70-73, 2004.
7)承認時評価資料:第Ⅱ/Ⅲ相二重盲検比較試験
8)Fujimoto K, et al. J Diabetes. 10:675-682, 2018.
9)吉原 良一, 西村 理明 ほか. Diabetes Frontier Online 6, e1-003, 2019.
COI:
本調査はキッセイ薬品工業株式会社の資金により実施した。論文作成及び投稿に関する費用はキッセイ薬品工業株式会社が負担した。著者のうち2名はキッセイ薬品工業株式会社の社員である。著者にキッセイ薬品工業株式会社より講演料を受領している者が含まれる。

グルベス配合OD錠のDrug Informationはこちらをご参照ください。

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