KISSEI
糖尿病患者さんを
支える“ひと” 1
糖尿病診療に携わるメディカルスタッフの方に、患者さんの療養支援で心がけていることや
コミュニケーションの取り方、患者さんが受診したくなるような工夫、心に残った患者さんとの
エピソードなど、日頃の実臨床での様子を伺いました。
  • ―― 糖尿病看護認定看護師の立場から

    吉田 照美 先生

    岡崎市民病院 看護局 患者支援部門

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私を糖尿病看護に向かわせた患者さん

どうしてよくなろうとしないのだろう

看護師になって最初の頃は外科系の病棟――脳外科、整形外科、口腔外科などで働いていて、実は内科系疾患にはあまり興味がありませんでした。でも、外科病棟に入院している患者さんは糖尿病を合併している人がとても多いのです。そして治療に向き合わずに糖尿病を悪化させてしまう患者さんも少なくありません。「なんでよくなろうとしないのだろう」と日々モヤモヤしていて、「なんとか糖尿病を改善させたい、もっと糖尿病のことを勉強したい」と思うようになりました。最初は糖尿病療養指導士の資格を取り、さらに極めようと糖尿病看護認定看護師の資格を取得しました。

私を糖尿病看護に向かわせた大きなきっかけとなった患者さんがいます。整形外科病棟で働いていたときに出会った、糖尿病の合併症のために下肢切断をした患者さんです。彼はそんな状態になっても糖尿病に向き合おうとはしてくれませんでした。病院の売店にこっそりお菓子を買いに行ったりして。糖尿病の治療に取り組むよう何度も説得しようとしました。一生懸命になりすぎて患者さんを激しく叱責し、当時の看護長から止められたこともあります。

結局、糖尿病による下肢切断は生命予後が悪いこともあり、その患者さんは私が他の病棟に異動した後、入院中に亡くなりました。高齢のお母さんを残して……。もっとできたことがあったのではないか、と自分の知識の足りなさ、力のなさを痛感しました。これをきっかけに、患者さんを叱ってしまうと一切話を聞いてくれなくなる、まずはこちらが患者さんの話を聞いて理解することが必要ではないかと思うようになりました。

話を聞く

インスリン注射を自己判断で調節して体重がどんどん増えてしまった患者さんがいました。その方は食事療法はしておらず、自分で血糖の推移や変動パターンがわかる測定器を使って、血糖値が高いと医師に相談せずに注射の回数を増やしていました。食事療法をせずにインスリン注射を続けると血糖は下がっても体重が増えてしまうこと、またそのうちにインスリンが効かなくなって血糖が高くなってしまうことをその患者さんは知らなかったんですね。

いろいろと指摘したい気持ちはありましたが、まずは「血糖コントロールを改善しようと熱心なことはすばらしい」と患者さんの行動変容を承認しました。またなぜインスリンを増やそうと思ったのか話を聞いていると、好きな人ができたのでやせたい、早く糖尿病を改善したいと思っていることがわかりました。インスリンを増やすと体重増加につながり、結果的にインスリンが効きにくい状態になってしまう。したがって、食事や運動にも気をつけるほうが効果的だと話したところ、患者さんのやる気が高まって食事療法と運動療法を始めるようになり、血糖コントロールも良好となりその方はインスリンを増やすどころか、インスリンを減量しながら、体重を減らすことができました。

待つ

患者さんの話を熱心に聞くようになって、患者さんから「ご指名」を受けるようにもなりました(笑)。「近くに来たから」と、他の病院に移ってもわざわざ会いに来てくれる患者さんもいます。先日は、5年ほど当院で診ていた思春期発症の1型糖尿病の患者さんが、目指していた国家試験に合格したと目をキラキラさせて報告に来てくれました。

その患者さんは、かつては自分の病気に向き合えずにまわりに当たり、治療にも無関心で両親も困っている状態でした。あるときから、私は彼女とは糖尿病の話はしないことにして、生活のこと、学校のこと、将来のことなどについてよくおしゃべりするようになりました。すると、だんだん自分から血糖コントロールについて質問するようになってきたのです。

とくに若い患者さんは自分の病気以外にも様々な悩みを持っていて、治療の意義はわかっていても病気に向き合うパワーがないことがあります。私たちができるのは、患者さんの話を聞いて糖尿病や治療に向き合うことを阻害している要因は何かを知り、患者さん自身が自分の中で折り合いを付けて「糖尿病に向き合わなくては」と思えるようになるその過程を支援することだと思います。

そのためには「待つ」ことが必要でしょう。患者さんを変えようと思うのではなく、患者さんが自分から変わっていく、その時を待つのです。そして患者さんには「今日会えてよかった。また来てね」と告げて、いつでもあなたが相談したい時にはどんなことでも相談できる人とその場所があることを伝えるようにしています。

向き合う

最初にお話しした患者さんですが、もし彼が今生きていたらどうするだろうとよく考えることがあります。きっとたくさん話をするだろうなと思います。足のこと、お母さんのこと、糖尿病のこと。どんなふうに思っている? どんな気持ちでいる?って。当時の私はきちんと彼の声を聞いていなかったと思うのです。そんなことを確認したいです。

今、目の前にいる患者さんと明日は会えないこともある。あの経験から、私は患者さんの気持ちを大切にして向き合うようになってきたと思います。

(第2回につづきます)